日本結晶成長学会誌Vol. 39, No. 4 Abstract

「特集 ダイヤモンド成長」

責任編集: 嘉数 誠・寒川義裕

解説
ダイヤモンド結晶成長:パワーデバイス応用への現状と課題

嘉数 誠・平間一行・佐藤寿志

 ダイヤモンド半導体は,パワーデバイス応用に最も適した材料である.しかし,ドナー,アクセプタ不純物,無欠陥,無結晶丘の大面積ウエファー単結晶などの解決すべき結晶成長の課題が残されている.特に欠陥や結晶丘の生成機構や成長表面の機構は明らかになっていない.しかし高濃度の正孔チャンネルが熱的安定化できるようになり,デバイス特性はようやく実用水準に達した.






解説
無欠陥単結晶ダイヤモンドの高圧合成

角谷 均

 高圧高温下(HPHT)での温度差法において,高純度な炭素源とFe-Co-Ti溶媒,高結晶性の(001)種結晶を用い,HPHT条件を高精度に制御して,最大径12mmの高品質IIa型単結晶ダイヤモンドを合成した.このダイヤモンドは,天然あるいは従来の合成のダイヤモンドに比べて欠陥密度がはるかに少なく,非常に高い結晶性を有する.特に,(001)種結晶に成長させた結晶の種結晶上部の(001)成長セクター内には転位欠陥や積層欠陥はほとんど見られないことがX線トポグラフ測定より明らかとなった.そこで,合成領域内の低温側で合成温度を厳格に制御して,この(001)成長セクターが優勢な結晶形をもつダイヤモンドを合成したところ,5×5mm2以上の無欠陥部を含む結晶が得られた.






解説
単結晶ダイヤモンドウェハのプラズマCVD による高速・大面積成長

山田英明

 SiやSiCを超える物性値を持つ単結晶ダイヤモンドは,その優れた能力に期待されながらも,実用化に至るには,様々な課題が残されている.単結晶ダイヤモンドを用いたデバイス作製の基材となるウェハ供給においては,結晶の高品質化に加え,ウェハの大面積化と,大面積に渡る高速合成が大きな課題である.本稿では,単結晶ダイヤモンド合成技術開発と,結晶成長のメカニズムに関する現状を概説する






解説
イリジウム下地表面への選択成長法を用いたヘテロエピタキシャルダイヤモンドの作製(高品質ダイヤモンド実現に向けた取り組み)

澤邊厚仁・安藤 豊・鈴木一博・児玉英之・桑原潤史・前田真太郎・鎌野 崇・市原幸雄・鷲山 瞬・篠崎元太・木村清貴

 イリジウム下地表面への選択成長法を用いたヘテロエピタキシャルダイヤモンド膜の作製と高品質化について,同方法を用いたダイヤモンドの配向性向上と格子欠陥の低減に関する取り組みについて紹介する.また,同方法を用いた大面積ヘテロエピタキシャルダイヤモンド基板の作製と,同基板を用いた応用展開に関する将来展望を紹介する.






総合報告
プラズマCVD 法によるステップフリーダイヤモンド(111)表面の形成

徳田規夫・牧野俊晴・猪熊孝夫・山崎 聡

 我々はマイクロ波プラズマ化学気相堆積法を用いたダイヤモンド(111)のホモエピタキシャル成長モードの制御に関して取り組んできた.その結果,テラス上での2次元核形成を完全に抑制し,ステップ端のみを成長の起点にしたラテラル成長を実現した.メサ構造を持つ単結晶ダイヤモンド(111)基板を用いて,そのラテラル成長を行うことで,100×100μm2のメサ表面上に原子レベルで完全に平坦なステップフリーダイヤモンド(111)表面を形成することに成功した.一方,同一基板上のメサ表面では成長丘も観察された.その成長丘は,螺旋転位や混合転位を核としたスパイラル成長により形成されることを明らかにした.






解説
CVD 単結晶ダイヤモンドの異常成長粒子,転位,不純物ドーピングの機構

嘉数 誠

 化学気相堆積法(CVD)成長ダイヤモンド単結晶には,天然や高温高圧合成ダイヤモンドにない特徴的な異常成長粒子,結晶欠陥や不純物混入などの現象があり,電子デバイス応用の致命的な問題となっている.そこで,本研究では,これらを水素・酸素プラズマ処理によって生成するエッチピットや微傾斜角度研摩面のカソードルミネッセンス(CL)観察という手法で機構を調べた.
CVDダイヤモンドの異常成長粒子を非エピタキシャル結晶(UC),ピラミッド状成長丘(PH)とフラットトップ状成長丘(FH)に分類し,ピラミッド状成長丘とフラットップ状成長丘は共に貫通転位と関連をもつことを明らかにした.また意図せずCVDダイヤモンド単結晶中にドーピングされるホウ素(B)不純物は,CVD 成長中に基板結晶から気相を経てドーピングされることを明らかにした.






総合報告
物理気相成長法による超ナノ微結晶ダイヤモンドの生成とドーピングによる結晶粒成長促進効果

大曲新矢・花田賢志・片宗優貴・吉田智博・吉武 剛

 物理気相成長法であるレーザアブレーション(PLD)法と同軸型アークプラズマ(CAPD)法による超ナノ微結晶ダイヤモンド(UNCD)の生成機構を総説する.両作製法によるUNCD結晶の成長は,ダイヤモンドパウダーを用いた基板のシーディング前処理が不要であり,化学気相成長法での成長とは明らかに異なる.膜堆積時のプラズマのin-situ発光分光観測とシンクロトロン光を用いた構造評価の結果を基にUNCDの成長機構に関して,1)高エネルギーCイオン粒子による過飽和状態の持続が結晶核の生成に寄与している可能性が高いこと,2)成長初期段階の結晶が,その表面のダングリングボンドが水素原子により終端されることで安定化し,かつその成長が助長されると考えられること,3)ホウ素ドープによる明白な結晶粒径増大効果を実験的に確認し,それがダイヤモンドの気相成長で知られる欠陥誘起成長モデルにより定性的にうまく説明できること,を明らかにした.






解説
X 線トポグラフィによる転位の同定

加藤有香子・梅沢 仁・鹿田真一

 X線トポグラフィによる転位評価は,ダイヤモンド単結晶基板にとっては十分広い観察視野(〜100mm幅)と転位種の同定が可能という特長をもつ.ダイヤモンド基板やエピタキシャル層中の転位分布像の撮影や各転位の種類を特定できるので,ダイヤモンドパワーデバイスと結晶品質の相関を議論するのに必要不可欠な実験手法である.本稿では,今,改めてダイヤモンドの転位評価が必要になった理由として,ダイヤモンドパワーデバイスの背景を紹介すると共に,X線トポグラフィの測定手順及び実際のデータとして,Ib型HPHTダイヤモンド,IIa型HPHTダイヤモンド,Ib 型HPHTダイヤモンド上に成長させたp型CVDダイヤモンドの3種類を紹介する.