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2021年 日本結晶成長学会賞受賞者 紹介
第16回業績賞および赤﨑 勇賞・第38回論文賞・第28回技術賞・第19回奨励賞

第16回業績賞および赤ア 勇賞

受賞者
江川 孝志
江川 孝志 Takashi Egawa
 名古屋工業大学大学院工学研究科 教授
 Professor, Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology
受賞題目
「シリコン基板上窒化物パワー半導体の開拓及び実用化」
Development and practical application of GaN-on-Si power semiconductors
受賞理由
 江川孝志会員は,MOCVD法を用いて大口径Si基板上に高品質のGaN層(GaN/Si)を結晶成長させる技術(ヘテロエピタキシャル成長技術)を開発し,高効率・大電力動作,大口径化,低コスト化が可能である省エネ用GaN/Siパワー半導体の研究開発において顕著な業績を挙げた.
従来の技術を用いたGaN/Siでは,Si基板上に低温で成長させたAlN初期層を用いていた.しかし,このAlN初期層が三次元成長するため,この上に高温でGaN層を成長させると,AlN島状結晶どうしの間からGaがSi基板に侵入し,SiとGaの反応によるメルトバックエッチングが発生する.その結果,GaN成長層表面にV状のピットが発生し,GaN層表面が劣化するという大きな問題が発生した.これを解決するために,本技術では,AlN初期層を二次元成長させ,Si基板表面をAlN初期層で被覆することにより,メルトバックエッチングを抑制でき,GaN層の表面状態が大幅に改善された.
また,GaN/Siでは,SiとGaNの熱膨張係数が大きく異なるため,温度を成長温度から室温に冷却する際,GaN層に熱歪による引っ張り応力が印加され,GaN/Siエピ基板が大きく凹状に反り割れるため(クラックの発生),GaN層の厚膜化が困難であり,高耐圧のパワーデバイスとしては致命的な問題であった.これを解決するために,GaN/AlN多層膜で構成される歪超格子層を導入し,GaN層を成長させる方法を開発した.冷却の際に生じる引っ張り応力とは逆方向の圧縮応力をGaN層にあらかじめ与えておき,冷却時の歪を相殺するものである.
本技術は,民生用エレクトロニクス分野を中心とする省エネ用パワーデバイスばかりでなく,ポスト5G時代の通信基地局の普及に不可欠なGaN系高周波デバイスへの広がりも期待されている.
以上のことから,江川会員は本会業績賞および赤ア勇賞にふさわしいと判断した.

第38回論文賞

受賞者
  野澤 純 
野澤 純  Jun Nozawa
 東北大学金属材料研究所 特任助教
 Specially Appointed Assistant Professor, Institute for Materials Research,
 Tohoku University
受賞題目
「コロイド結晶の成長メカニズムと成長制御」
Study on the growth mechanism and growth control of the colloidal crystals
受賞対象論文
"Growth and one-dimensional heteroepitaxy of binary colloidal crystals, Jun Nozawa",* Satoshi Uda, Akiko Toyotama, Junpei Yamanaka, Hiromasa Niinomi, Junpei Okada, Crystal Growth & Design, 査読有り, 20 (5), 3247-3256, 2020.
その他対象業績
  1. “Structural transformations of growing thin colloidal crystals in confined space via convective assembly”, Sumeng Hu, Jun Nozawa*, Kejia Kang, Suxia Guo, Haruhiko Koizumi, Zon-Han Wei, Satoshi Uda, Journal of Colloid and Interface Science, 査読有り, 591, 300-306, 2021.
  2. “Effects of solution flow on the growth of colloidal crystals”, Jun Nozawa*, Satoshi Uda, Suxia Guo, Akiko Toyotama, Junpei Yamanaka, Hiromasa Niinomi, Junpei Okada, Langmuir, 査読有り, 36(16), 4324-4331, 2020.
  3. “Effect of substrate on nucleation rate of two-dimensional colloidal crystals”, Suxia Guo, Jun Nozawa*, Masashi Mizukami, Kazue Kurihara, Akiko Toyotama, Junpei Yamanaka, Hiromasa Niinomi Junpei Okada, Satoshi Uda, Crystal Growth and Design, 査読有り, 19(6), 3215-3221, 2019.
  4. “Kink distance and binding energy of colloidal crystals”, Jun Nozawa*, Satoshi Uda, Suxia Guo, Akiko Toyotama, Junpei Yamanaka, Naoki Ihara, Junpei Okada, Crystal Growth and Design, 査読有り, 18(10), 6078-6083, 2018.
  5. “Step Kinetics Dependent on the Kink Generation Mechanism in Colloidal Crystal Growth”, Jun Nozawa*, Satoshi Uda, Suxia Guo, Akiko Toyotama, Junpei Yamanaka, Junpei Okada, and Haruhiko Koizumi, Crystal Growth & Design, 査読有り, 18(5), 2948-2955, 2018.
  6. “Heterogeneous Nucleation of Colloidal Crystals on a Glass Substrate with Depletion Attraction”, Suxia Guo, Jun Nozawa*, Sumeng Hu, Haruhiko Koizumi, Junpei Okada, and Satoshi Uda, Langmuir, 査読有り, 33(40), 10543-10549, 2017.
  7. “Two-Dimensional Nucleation on the Terrace of Colloidal Crystals with Added Polymers”, Jun Nozawa*, Satoshi Uda, Suxia Guo, Sumeng Hu, Akiko Toyotama, Junpei Yamanaka, JunpeiOkada, and Haruhiko Koizumi, Langmuir, 査読有り, 33(13), 3262-3269, 2017.
  8. “Effect of Solid-Liquid Interface Morphology on Grain Boundary Segregation during Colloidal Polycrystallization”, Sumeng Hu, Jun Nozawa*, Suxia Guo, Haruhiko Koizumi, Kozo Fujiwara, and Satoshi Uda, Crystal Growth & Design, 査読有り, 16(5), 2765-2770, 2016.
  9. “Orientation-dependent impurity partitioning of colloidal crystals”, Jun Nozawa*, Satoshi Uda, Sumeng Hu, Kozo Fujiwara, Haruhiko Koizumi, Journal of Crystal Growth, 査読有り, 439, 13-18, 2016.
  10. “Grain Boundary Segregation of Impurities During Polycrystalline Colloidal Crystallization”, Sumeng Hu, Jun Nozawa*, Haruhiko Koizumi, Kozo Fujiwara, Satoshi Uda, Crystal Growth & Design, 査読有り, 15, 5685-5692, 2015.
  11. “Impurity partitioning during colloidal crystallization”, Jun Nozawa*, Satoshi Uda, Yuhei Naradate, Haruhiko Koizumi, Kozo Fujiwara, Akiko Toyotama, Junpei Yamanaka, Journal of Physical Chemistry B, 査読有り, 117, 5289-5295, 2013.
受賞理由
 野澤純会員は結晶成長の視点によるコロイド結晶の成長メカニズムの研究に取り組み,不純物分配,2次元核形成,キンク形成と成長速度,構造・成長制御といった課題に対し当該研究分野を牽引する業績を挙げてきた.野澤会員は応募対象論文でサイズの異なる2種類の粒子を用いた2元系コロイド結晶の詳細な晶出プロセスを明らかにし,晶出メカニズムに基づいたコロイド結晶の新しい成長制御法を見出した.2元系コロイド結晶は単一粒子径と比較して各段に構造の多様性を有し,用途に即した構造が得られる事から多様なコロイド結晶の応用に必須とされている.しかしながら,その構造の複雑さから成長や構造制御は非常に困難であった.野澤会員は,先に晶出した異種結晶の側面で2元系コロイド結晶の核形成が促進される事をその場観察によって明らかにし,異種結晶基板を利用した成長制御法を着想し,実験的にその有効性を示す事に成功した.以上述べた研究はコロイド科学のみならず結晶成長学の発展に大いに貢献するものであり,日本結晶成長学会論文賞を受賞するにふさわしいと判断した.

受賞者
 岩谷 素顕 
  佐藤 恒輔 

 三宅 秀人 
 竹内 哲也 
佐藤 恒輔 Kosuke Sato
 旭化成株式会社    
 Asahi Kasei Corporation
岩谷 素顕 Motoaki Iwaya
 名城大学理工学部 教授    
 Professor, Faculty of Science and Technology,  
 Meijo University
竹内 哲也 Tetsuya Takeuchi
 名城大学理工学部 教授    
 Professor, Faculty of Science and Technology,
 Meijo University
三宅 秀人 Hideto Miyake
 三重大学大学院地域イノベーション学研究科 教授    
 Professor, Graduate School of Regional Innovation
 Studies, Mie University
受賞題目
「高品質AlGaNの作製およびUV-B半導体レーザの実現」
Fabrication of High Quality AlGaN Films and UV-B Semiconductor Lasers
受賞対象論文
“Room-temperature operation of AlGaN ultraviolet-B laser diode at 298 nm on lattice-relaxed Al0.6Ga0.4N/AlN/sapphire” Kosuke Sato, Shinji Yasue, Kazuki Yamada, Shunya Tanaka, Tomoya Omori, Sayaka Ishizuka, Shohei Teramura, Yuya Ogino, Sho Iwayama, Hideto Miyake, Motoaki Iwaya, Tetsuya Takeuchi, Satoshi Kamiyama, Isamu Akasaki Applied Physics Express, 査読あり, Vol. 13, 031004, 2020 年.
その他対象業績
  1. “高品質 AlGaN の作製および UV-B 半導体レーザの実現”, 岩谷素顕, 大森智也, 田中隼也, 山田和輝, 手良村昌平, 荻野雄矢, 石塚彩花, 佐藤恒輔, 岩山章, 竹内哲也, 上山智, 赤ア勇, 三宅秀人, 日本結晶成長学会誌, 査読あり, Vol.47, 4-3-01-1〜4-3-01-10, 2020年.
  2. “Effect of dislocation density on optical gain and internal loss of AlGaN-based ultraviolet-B band lasers”, Shunya Tanaka, Yuta Kawase, Shohei Teramura, Sho Iwayama, Kosuke Sato, Shinji Yasue, Tomoya Omori, Motoaki Iwaya, Tetsuya Takeuchi, Satoshi Kamiyama, Isamu Akasaki, Hideto Miyake Applied Physics Express, 査読あり, Vol. 13, 045504, 2020年.
  3. “High Crystallinity and Highly Relaxed Al0.6Ga0.4N Films Using Growth Mode Control Fabricated on a Sputtered AlN Template with High-Temperature Annealing”, Shohei Teramura, Yuta Kawase, Yusuke Sakuragi, Sho Iwayama, Motoaki Iwaya, Tetsuya Takeuchi, Satoshi Kamiyama, Isamu Akasaki, Hideto Miyake Physica Status Solidi (a), 査読あり, 1900868, 2020年.
  4. “Ultraviolet-B band lasers fabricated on highly relaxed thick Al0.55Ga0.45N films grown on various types of AlN wafers”, Yuta Kawase, Syunya Ikeda, Yusuke Sakuragi, Shinji Yasue, Sho Iwayama, Motoaki Iwaya, Tetsuya Takeuchi, Satoshi Kamiyama, Isamu Akasaki, Hideto Miyake, Japanese Journal of Applied Physics, 査読あり, Vol. 58, SC1052, 2019年.
受賞理由
 佐藤恒輔会員,岩谷素顕会員,竹内哲也会員,三宅秀人会員は受賞対象論文において,三つの革新的な結晶成長技術を組み合わせることで,UV-B(ISO 21348の定義では波長領域: 280-315 nm) 波長領域 のレーザダイオードの室温パルス発振に世界で初めて成功した.
一つ目は,三宅秀人会員等が開発したスパッタ法にてサファイア基板上に成膜したAlNを高温熱処理することで高品質化させる技術である.本技術を用いることでUV-B レーザダイオードに用いる世界最高水準の高品質AlN結晶が実現された.二つ目は,岩谷素顕会員,竹内哲也会員等が開発した自己核発生により三次元にAlGaNを成長させ平坦化し二次元成長に移行させる技術である.本技術を用いることにより,AlGaN結晶中の格子歪を緩和させることと同時に,AlGaN結晶の高品質化を実現した.三つ目は,佐藤恒輔会員,岩谷素顕会員,竹内哲也会員等が開発したp型クラッド層に分極ドーピング法を適用した組成傾斜AlGaN結晶の成長技術である.本構造をクラッド層として用いることで,良好な光共振器とレーザ発振に必要なキャリアの反転分布が形成可能な数十kAcm-2を超える大電流密度動作を同時に実現できるレーザダイオード薄膜構造の作製に成功した.UV-B領域の発光素子を実現できる材料のバンドギャップエネルギーは4eVを超えており従来の物性論では絶縁体と捉えるような材料である.一方,半導体レーザ実現に不可欠な光共振器を実現するためには数百nmから数μmを超える膜厚を必要とする.したがって,大電流密度動作と光共振器の形成を同時に実現するのは困難であると考えられてきたが,結晶成長学の技術を活用することによりブレークスルーを達成した.
本研究は結晶成長学を礎として,これまで絶縁体として捉えられてきた材料を用いて革新的な半導体素子の開発へと至っており,結晶成長学のみならず半導体工学の発展において極めて重要な成果である.
以上の理由から,日本結晶成長学会論文賞を受賞するにふさわしいと判断した.

第28回技術賞

応募者なし

第19回奨励賞

受賞者
  草場 彰 
草場 彰  Akira Kusaba
 九州大学応用力学研究所 助教
 Assistant Professor, Research Institute for Applied Mechanics (RIAM),
 Kyushu University
受賞題目
「非平衡量子熱力学によるGaN気相成長プロセスの解明」
Modeling non-equilibrium process of GaN metalorganic vapor phase epitaxy
受賞対象論文
“Modeling the Non-Equilibrium Process of the Chemical Adsorption of Ammonia on GaN(0001) Reconstructed Surfaces Based on Steepest-Entropy-Ascent Quantum Thermodynamics”, Akira Kusaba, Guanchen Li, Michael R. von Spakovsky, Yoshihiro Kangawa and Koichi Kakimoto, Materials, 査読あり, 10, 948-1-13 (2017).
受賞理由
 草場彰会員は,次世代パワーデバイス材料として開発されている窒化ガリウム(GaN)に焦点を当て,その有機金属気相成長(MOVPE)における表面反応プロセスを非平衡量子熱力学(Steepest-Entropy-Ascent Quantum Thermodynamics: SEAQT)の観点から解き明かした.GaN MOVPEでは分解速度の遅いNH3原料ガスは未分解(非平衡)の状態で成長表面に到達することが知られている.草場会員は平衡から遠い非平衡状態からの緩和過程を予測可能なSEAQT法を世界に先駆けて結晶成長プロセスの解析に適用し,GaN MOVPEにおけるNH3吸着確率の時間発展を明らかにした.また,SEAQT法は系のエネルギー準位の上での確率分布を考慮するため,平均化された状態量に基づく従来の吸着解析法と比べ,微量の不純物の吸着量解析に優れる.Ga(CH3)3原料ガスから分解生成されたCH4についても吸着過程を解析し,炭素汚染の低減,すなわちGaNの高純度化に資する重要な知見を得た.以上のように,草場会員は非平衡量子熱力学に立脚した類い稀なプロセス解析技術を有しており,将来,結晶成長学の進歩発展への大きな貢献が期待されることから,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.

受賞者
谷川 智之
谷川 智之 Tomoyuki Tanikawa
 大阪大学大学院工学研究科 准教授
 Associate Professor, Graduate School of Engineering, Osaka University
受賞題目
「多光子励起フォトルミネッセンス法を用いた結晶欠陥の三次元非破壊イメージング」
Three-dimensional nondestructive imaging of crystalline defects using multiphoton excitation photoluminescence
受賞対象論文
“Three dimensional imaging of threading dislocations in GaN crystals using two photon excitation photoluminescence”, T. Tanikawa, K. Ohnishi, M. Kanoh, T. Mukai, T. Matsuoka, Appl. Phys. Express (査読有 ), 11, pp. 031004 1 031004 4 (2018).
受賞理由
 谷川智之会員は,多光子励起フォトルミネッセンス法によるGaN結晶の貫通転位の非破壊・三次元イメージングに初めて成功した.GaNやSiCなどの次世代半導体はパワーデバイス応用に期待されている材料だが,シリコンと比べて非常に高密度の結晶欠陥が存在する.そのため,次世代半導体の開発において結晶欠陥の観察評価技術は必要不可欠である.GaN結晶は市販の基板でも1センチ角あたり100万個程度の貫通転位が存在する.現在,GaN系縦型パワーデバイスの実用化に向けて,低転位GaN結晶の作製技術の開発と,転位などの結晶欠陥のデバイス特性への影響の評価解析が行われている.多光子励起フォトルミネッセンスを用いたSiCの欠陥イメージングについては既に他機関から報告されていたが,谷川氏は非常に転位密度の高いGaN系材料においても欠陥の三次元分布を可視化できることを実験的に明らかにし,非常に高いインパクトを与えた.この観察手法を用いて,HVPE成長やNaフラックス成長などバルク成長における転位低減プロセスを高精細に評価することができるようになり,高品質結晶の創製に貢献された.このイメージング技術は,GaNだけでなく,ダイヤモンド,CaF2,Ga2O3などワイドギャップ材料の欠陥観察にも応用されており,多様な材料の結晶成長学の進展に貢献できたといえる.
以上の理由から,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.