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2019年 日本結晶成長学会賞受賞者 紹介
第14回業績賞および赤﨑 勇賞・第36回論文賞・第26回技術賞・第17回奨励賞

第14回業績賞および赤﨑 勇賞

受賞者
纐纈 明伯
纐纈 明伯 Akinori Koukitu
 東京農工大学 特別招へい教授, 名誉教授
 Professor, Vice President, Tokyo University of Agriculture and Technology
受賞題目
「窒化物半導体ハライド気相成長法の開発と産業応用」
Development of Bulk Group-III Nitrides by Halide Vapor Phase Epitaxy and Its Industrial Application
受賞理由
 受賞者は,窒化物半導体のハライド気相成長(Halide or Hydride Vapor Phase Epitaxy; HVPE)に関する研究において顕著な業績を収めた.受賞者は,長年に渡るGaAsに代表される化合物半導体の気相成長の熱力学解析,第一原理計算および原子層レベルの重量変化のその場測定を用いた成長メカニズムの研究を推進するとともに,得られた基礎的な知見を基に理想的な気相成長法を探索し,実証してきた.これらの集成として,世界で初めてのGaNウェハー量産化に大きく貢献した.
次に,III族原料ガス(一塩化アルミニウム:AlCl)と石英反応管との化学反応により実現困難とされてきた窒化アルミニウム(AlN)HVPE成長を,三塩化アルミニウム(AlCl3,Tri-halide)をIII族原料とすることで実現可能であることを世界で初めて提案・実証した.ここで開発されたAlNウェハーは深紫外LED用基板として産業的に用いられつつある. また,THVPE(Tri-halide VPE)技術は,AlNのみならずGaN, InN,InGaNの高速厚膜成長にも応用可能であることを立証した.特に,近年,THVPE原料分子の特異な表面吸着特性が叶える有用な特徴を持つ新しいGaNバルク成長法を考案し,低コスト・高品質なGaNウェハー作製法として提案している.
このように,受賞者は基礎的研究により得られた重要な知見から,工業生産に利用される多くの厚膜成長技術が生み出され,窒化物半導体産業の発展に大きく貢献してきた.以上のことから,受賞者の業績は本会業績賞および赤ア勇賞にふさわしいと判断された.

第36回論文賞

受賞者
木村 勇気
木村 勇気 Yuki Kimura
 北海道大学低温科学研究所 准教授
 Associate Professor, Institute of Low Temperature Science,
 Hokkaido University
受賞題目
「均質核生成実験による宇宙塵の生成過程の解明」
Elucidation of formation processes of cosmic dust particles based on homogeneous nucleation experiments
受賞対象論文
"Pure iron grains are rare in the universe", Y. Kimura*, K. K. Tanaka, T. Nozawa, S. Takeuchi, Y. Inatomi, Science Advances, 3, e1601992, (2017).
その他対象業績
  1. "Sounding-rocket microgravity experiments on alumina dust", S. Ishizuka, Y. Kimura*, I. Sakon, H. Kimura, T. Yamazaki, S. Takeuchi, Y. Inatomi, Nature Communications,9, 3820 (6pp) (2018).
  2. "Experiments on Condensation of Calcium Sulfide Grains To Demarcate Environments for the Formation of Enstatite Chondrites", K. Yokoyama, Y. Kimura*, C. Kaito, ACS Earth and Space Chemistry, 1, 601-607, (2017).
  3. "In situ infrared measurements of free-flying silicate during condensation in the laboratory", S. Ishizuka, Y. Kimura*, I. Sakon, The Astrophysical Journal, 査読有, 803, 88 (6pp), (2015).
受賞理由
 木村勇気会員は,従来,マクロな物性と熱力学的平衡過程をもとに研究されてきた宇宙塵を,非平衡環境中で生成するナノ粒子として考えて研究を展開した.木村会員は受賞対象論文で,独自に開発した微小重力実験用の装置を用いることで,従来の研究にはない二つの重要な発見をした.一つ目は,宇宙塵の形成過程を模擬した核生成実験に成功し,ナノ粒子の表面張力だけでなく,従来100%として仮定されてきた原子や分子の付着確率を独立して求めることで,均質核生成は非常に起こりにくいことを明確にした点である.これは,下地となるような微粒子や有機分子などが全く存在しないために均質核形成が主となる星周環境においては,宇宙塵は容易に形成しないことを示した成果である.二つ目は,融点降下で代表されるナノ粒子特有の物性を強く意識して現象をとらえた点にある.この結果は,ガスからナノ粒子が生成する過程においても固体微粒子が直接生成するのではなく,液滴を経由する2段階の核形成過程を経ることを明確に示した.以上の研究において木村会員は,宇宙塵は従来天文学,惑星科学で考えられていた温度より,遥かに低温で,かつ,急速に形成されることを示した.これらの木村会員の業績は,結晶成長学を他分野に明確に発展させた好例であり,その高い価値から論文賞として相応しいと判断した.

第26回技術賞

受賞者
手嶋 勝弥
手嶋 勝弥 Katsuya Teshima
 信州大学 先鋭材料研究所 所長・工学部物質化学科 教授
 Director, Research Initiative for Supra-Materials,
 Professor, Department of Materials Chemistry, Shinshu University
受賞題目
「チタン酸ナトリウム結晶のフラックス育成とそれを用いた新規吸着材料の開発」
Flux growth of sodium titanate crystals and their application for novel water-purifier materials
受賞理由
 信州大学 手嶋・是津研究室(前身の大石・手嶋研究室含め)では,溶液からの結晶育成技術のひとつであるフラックス法を長年研究してきた.フラックス法はさまざまな結晶種を比較的容易に育成でき,その晶相や晶癖を制御できることを特長とするため,物性分析用の小型結晶(粒子)の育成に活用されてきた.ただし,大型や均一サイズの結晶粒子を育成することが難しく,量産化工程の制御も容易ではないため,産業応用を目指した結晶育成プロセスとしてはほとんど活用されていなかった.しかし,手嶋氏は,(重)金属イオンを選択的に吸着できる無機イオン交換体の層状チタン酸ナトリウム系化合物の結晶をフラックス育成することに成功し,その優れた性能を証明した.特に,硝酸塩系のフラックスを用いることで,目的結晶の化学組成とともに,ナノ・マイクロメートルスケールで層状構造(超空間)を最適制御できることを見いだし,その吸着(選択的イオン交換)性能を飛躍的に向上できた.この結果は,水中に溶解する(重)金属イオンの除去を目的とする浄水デバイス応用に適しているため,トクラス株式会社(当時:ヤマハ発動機)と協働し,この結晶材料のデバイス実装に努めてきた.この結晶材料の生体安全性や製造安全性,材料メーカーによる量産化,ならびに結晶材料のモジュール化・デバイス化などの数々の課題をクリアし,2018年12月,携帯型浄水ボトル『NaTiO(ナティオ)』に搭載され,市販された.現在も,この結晶材料の優れた性能を活用し,他の浄水モジュールへの搭載を積極的に推進している.さらに,この結晶材料・モジュール創製技術を最大限に活用することで,(重)金属イオンなどの陽イオンだけでなく,放射性核種イオンや陰イオン有害物質の吸着材料の研究開発も大幅に進展している.これらの成果に鑑み,候補者の『チタン酸ナトリウム結晶のフラックス育成とそれを用いた新規吸着材料の開発』は日本結晶成長学会・技術賞に相応しいと判断する.

受賞者
北川 泰三
梶ヶ谷 富男

寺島 彰
青木 克冬

東風谷 敏男
西村 裕介
梶ヶ谷 富男 Tomio Kajigaya
 住友金属鉱山株式会社    
 Sumitomo Metal Mining Co., Ltd.
北川 泰三 Taizo Kitagawa
 住友金属鉱山株式会社    
 Sumitomo Metal Mining Co., Ltd.
青木 克冬 Katsutoshi Aoki
 住友金属鉱山株式会社    
 Sumitomo Metal Mining Co., Ltd.
寺島 彰 Akira Terashima
 住友金属鉱山株式会社    
 Sumitomo Metal Mining Co., Ltd.
西村 裕介 Yuusuke Nishimura
 住友金属鉱山株式会社    
 Sumitomo Metal Mining Co., Ltd.
東風谷 敏男 Toshio Kochiya
 住鉱国富電子株式会社
 Sumiko Kunitomi Denshi Co., Ltd.
受賞題目
「タンタル酸リチウム基板の量産化技術開発」
Development of mass production technology for lithium tantalate substrate
受賞理由
 タンタル酸リチウム(LT)単結晶は,主に移動体通信用のSAWデバイスを製造するための材料基板として用いられている.候補者らは,Cz法による育成結晶の大型化や育成工程の自動化,高精度基板加工技術を確立し低コストな量産工程を実現した.更には独自の方法による還元処理技術を検討し,体積抵抗率制の御性に優れた量産技術を確立した.梶ヶ谷,北川は,Cz法によるLT単結晶育成において,育成条件と結晶性の関係を詳細に調査し,単結晶化率向上,及び大口径化に貢献した.更に,還元剤を用いたLT基板の還元処理技術の開発を行い量産化に繋げた.青木は,Cz法によるLT単結晶育成において,育成作業の完全自動化技術を開発し,単結晶化率向上,省人化を進め,育成コストの大幅な低減を実現した.寺島は,Cz法によるLT単結晶育成において,従来は単結晶化率が低かった特殊方位での育成条件を詳細に検討し,量産化に繋げた.西村は,Cz法によるLT単結晶育成において,融液内対流と成長界面形状の関係に着目し,大口径結晶の量産育成技術開発に貢献した.更に,基板加工技術において,高精度基板,低背基板,大口径基板加工技術を確立し,量産化に繋げた.東風谷は,Cz法によるLT単結晶育成において,育成環境の温度勾配と結晶回転速度を最適化することで育成結晶の長尺化を達成し,育成コストの大幅な低減を実現した.これらの成果により,候補者らは,高品質なLT単結晶基板を低コストで量産化する技術を確立したので,日本結晶成長学会技術賞に相応しいと判断した.

第17回奨励賞

受賞者
荒木 優希
荒木 優希 Yuki Araki
 立命館大学 助教
 Assistant Professor, Ritsumeikan University
受賞題目
「界面水が介在する相転移機構の解明」
Investigation of phase transition mechanism mediated by interface water
受賞対象論文
"Direct Observation of the Influence of Additives on Calcite Hydration by Frequency Modulation Atomic Force Microscopy", Yuki Araki*, Katsuo Tsukamoto, Ryosuke Takagi, Tomoyuki Miyashita, Noriaki Oyabu, Kei Kobayashi and Hirofumi Yamada, Crystal Growth and Design, 14, 6254-6260 (2014).
受賞理由
 荒木優希会員は,溶液成長の原子スケールその場観察に取り組み,結晶成長における添加物効果や相転移過程を可視化してきた.原子スケールの空間分解能を持つ周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)を初めて結晶成長観察に適用し,特に溶液成長における物理障壁である界面水の効果をその場観察により実証している点がユニークである.これまでに,炭酸カルシウム結晶の安定相であるカルサイトの表面が添加物によって準安定相のアラゴナイト構造へ相転移することや,そのときに界面水の構造化が促進されていることを発見している.これらの結果から,界面水が介在した相転移モデルを着想し,固液界面の構造変化による界面エネルギー変化を明らかにしようとしている.以上のように,荒木氏は新規的手法を効果的に用いて,水が物質輸送や界面エネルギーに与える影響について結晶成長学の観点から研究し,重要な知見を与えている.以上の理由から,今後の結晶成長学の発展に対するさらなる貢献が期待できるため,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.

受賞者
杉浦 悠紀
杉浦 悠紀 Yuki Sugiura
 国立研究開発法人産業技術総合研究所 研究員
 Researcher,
 National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)
受賞題目
「新しい高純度リン酸八カルシウム結晶合成法の構築とその医療材料への応用」
Fabrication of high purity octacalcium phosphate production and its biomaterial application
受賞対象論文
"Sodium Induces Octacalcium Phosphate Formation and Enhances its Layer Structure by Affecting to Hydrous Layer Phosphate", Yuki Sugiura*, Yoji Makita, Cryst Growth Des, 18, 6165-6171, 2018.
受賞理由
 杉浦悠紀会員は,極めて優れた生体親和性を示し骨補填材など新規医用材料として期待される,リン酸八カルシウム(OCP)の新しい結晶合成法を確立した.緩衝溶液から合成されるOCP の純度は溶質イオン種やその濃度に依存するが,高純度結晶の大量合成は従来困難であった.杉浦会員は,OCP を構成するCa イオンとイオン半径が近いNa イオンがOCPの固有構造の形成を大きく誘導することに着目した.Naイオン濃度を制御した合成実験により,OCP結晶成長プロセスを効果的に制御しOCPの大量合成を可能とした.さらにこの技術を応用して従来調製困難とされたOCPブロックを開発し,動物実験により骨補填材としての性能も実証した.OCPブロックは現行の骨補填材の性能を凌駕するだけでなく,薬剤と複合化することにより国内だけでも患者数が数百万人規模である難治性骨疾患への適応が期待される.結晶成長学的手法を駆使することにより新規医療材料開発の道を切り拓いたことは,その意義も本学会バイオ有機分科会への貢献も極めて大きい. 杉浦会員がほぼ単独で行ったこれら研究の業績は Cryst. Growth. Des.や,Dalton Trans.など著名な国際誌に掲載され,表紙に採択されるなど大きく注目されている.杉浦会員の業績は結晶成長と関係が深い医歯薬学や鉱物科学の分野へのインパクトも大きく,その研究能力の高さと視野の広さにより今後の結晶成長学の発展へのさらなる貢献が期待できる.故に,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.