日本結晶成長学会および人工結晶工学会の統合
Unification of The Japanese Association for Crystal Growth and
The Association of Synthetic Crystal Science and Technology
佐々木 孝友

 日本結晶成長学会は,昭和49年(1974年)に日本で結晶成長国際会議が開催されたことを契機として,理論と実験の研究者が,核形成から成長に至る結晶成長機構に関する基礎研究を中心に,相互に討論を重ねながら連携を深める場として,当時の結晶成長国内会議(NCCG)を母体として誕生しました.その後,結晶成長国際会議だけでなく,結晶成長 討論会(放談会)などでの議論を通じて基礎分野の学問を深めつつ,我が国の半導体産業や光・通信産業の進展とともに,シリコンや化合物半導体,酸化物材料など実用的な結晶に関する議論も活発となり,バルク分科会をはじめとする各種分科会が発足するなど,基礎分野以外にも各種材料を網羅した幅広い活動がなされています.そのような展開の中で,2004年には30周年の記念行事を実施するにいたりました.

  一方,人工結晶工学会は昭和30年(1955年)に人工鉱物討論会として名古屋大学を中心として発足しました.無機系材料に関する情報交換の場として出発し,水晶の実用化を始め,セラミックスや新規単結晶材料の探索および,単結晶材料の大型化等の工学的課題解決等を中心に討論を重ね,2005年には50周年の節目を迎えました.

 この両学会は独立に活動しながら,我が国の基礎的な学術レベルを国際的にもトップレベルに押し上げ,半導体材料,光電子材料,セラミックス材料などの実用的な結晶の開発でも多くのシェアを市場で確保するなど,基礎から応用まで多大な貢献をなし,今日の科学技術・産業技術の礎になっていることは言うまでもありません.しかしながら,21世紀になり,日本の科学技術と その関連産業を取り巻く環境は様変わりしました.規格化大量生産を中心とした20世紀後半の日本産業の各種成功モデルが崩壊しつつあり,既存組織がさまざまな改革を要求される,という時代になってまいりました.対外的には,アジア諸国,とりわけ中国の成長が著しく,産業におけるグローバルな競争がより一層激化するとともに,エネルギーや食料の需要が大幅に増大すると予測されています.国内的には,世界に例の ない速さで少子化,高齢化が進行しており,2006年頃をピークに人口が減少するという,大きな変革に直面する中,人材の活用を含め,生産性の維持・向上が求められています.資源の乏しい我が国は,将来的にも,貿易立国として,資源・エネルギーを安定に確保しながら,国民の豊 かさの維持・向上を図らねばなりません.このような厳しい環境の下,我が国が直面する課題を解決し,将来的に,環境と調和した持続的な発展を遂げるとともに,国際社会に貢献し,諸外国と友好的な関係を構築しつつリーダーシップを発揮するためには,科学技術力と産業技術力の振興が鍵を握っていることは異論のないところです.     

 我が国では,世界最高水準の科学技術の進展と,絶え間ない技術革新を促していくことにより,学問的な「知の創造」と産業競争力の強化や国民生活の向上といった「活力の創出」の好循環を生み出し,経済・社会の持続的発展の実現を目指すために,科学技術基本計画が制定され,政府の総合科学技術会議を中心に,各種の施策が展開されています.その基本計画においても,資源の乏しい我が国が,エネルギー,資源,食料を確保するためには,高付加価値製品や新しいサービスの開発を進め,世界の「モノ」創りの中 心であり続ける必要があると示されています.具体的には,材料技術やデバイス,プロセス技術の融合による「強みのある製造業を核にした価値創造型「モノ」創り国家の実現」などが挙げられます.さらに,国全体として,「知の創造」から技術の種が生まれ,「活力の創出」へと好循環を生み出してゆく上では,大学や公的研究機関が,基 礎研究を通じた技術の種の創出を行い,産業界は,高付加価値の製品やサービスの提供を通じて,地域社会の活性化から日本全体の雇用確保を果たす,というそれぞれの基本的役割を踏まえつつ,産学官が有機的に連携していくことが必要です.また,技術の種を創造する大学や公的研究機関では,既存の学問領域だけでなく,将来をにらんだ新融合領域の研究推進が求められています. 

 これまで,日本結晶成長学会および人工結晶工学会はおもに結晶という言葉をキーワードに,様々な結晶・材料研究を基礎と応用の両面から独立に推進してまいりましたが,これまで組織体制では,基礎から応用までの横断的連携が取れているとは言いがたく,ある意味で専門分野の縦割り組織となってしまったため,我が国が必要としている「知の創造」と「活力の創出」に十分に答えられにくい状態にあります.このため,我が国の,結晶・材料に携わる研究者,技 術者が,異分野の交流や産学官の有機的連携を通じて,創造された知を新産業の創出を始めとした「活力の創出」に向けたバリューチェーンを形成できるようコーディネートできる場を構築することが重要であります.また,今後,21世紀で求められる価値創造型「モノ」創りの基本となる結晶・材料研究をどのように捉え,推進し,日本が世界の拠点としてリードしてゆくのか,ということを真剣に議論してゆくことが必要不可 欠です.そのような状況におきまして,日本結晶成長学会および人工結晶工学会を統合し,研究対象としての結晶・材料については無機材料や有機材料だけでなく,医療バイオ分野にももっと積極的に関われるような多様化,そして研究内容としては基礎と産業応用の両面の融合による日本の結晶成長・材料分野の研究の方向性を示すことが,会員の方々,及び我が国の継続的発展に寄与する最適な方法であると思われます. 

 今回,このような国際的にも新しい時代に対応してゆくべく,日本結晶成長学会と人工結晶工学会を統合する事になりました.準備に関しては,両学会から合わせて20名の委員にでていただき統合準備委員会を結成し,統合の趣旨,定款などに関し,討論を重ねて参りました.そして平成18年4月 7 日(金)に学術総合センター・一橋記念講堂にて,統合記念学術講演会,第回総会および 統合記念式典を開催する運びとなりました.また学会の名前は「日本結晶成長学会」を引き継ぐことになりました.

 この二学会の統合により,さらに日本の結晶成長関連分野を発展さすべく努力していく所存でございますので,皆様方の益々の御支援・御協力のほどよろしく御願い申し上げます.

日本結晶成長学会会長(大阪大学工学研究科電気工学専攻・教授)
   日本結晶成長学会誌VOL33,No.1 2006

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