知の創造と活力の創出
-日本結晶成長学会と人工結晶工学会の統合を記念して-

Creation of Intelligence toward Invigoration of Crystal Growth Sphere
-Commemorating Unification of the Japanese Association for Crystal Growth and
the Association of Synthetic Crystal Science and Technology-
佐藤 勝昭

  このほど,日本結晶成長学会と人工結晶工学会の2つの学会が統合され,これまで別々の組織で活動してきた結晶・ 材料に関わる研究者・技術者・教育者が1つの組織に結集し,「知の創造」と「活力の創出」に向けて大きな一歩を踏み出すことになりました.歴史のある両組織の 統合という困難な事業に取り組まれた日本結晶成長学会の佐々木孝友会長,および,人工結晶工学会の平野真一会長のご慧眼に感謝いたしますとともに,地道な 準備作業を進めてこられた両学会のメンバーに心から敬意を表したいと存じます.

 日本結晶成長学会は結晶成長学の基礎から応用を幅広くカバーするという文化をもち,主として大学に所属する研究者 によって支えられてきました.一方,人工結晶工学会は,結晶成長の技術の開発とその産業化という文化をもち,主として産業界の技術者・研究開発担当者によって 支えられてきました.このたびの統合により,新しい学会は,結晶成長の基礎・応用から産業化までを一貫してカバーするシステムと財政基盤を手にすることができ ました.

  最近は,国立大学の法人化にともない,多くの大学で「企業に役立つ」技術を開発しようと躍起になっています.しかし, 企業が大学に求めるのは,短期的な成果としての「すぐ役立つ技術」ではなく長期的視野に立った「基礎に裏付けられた一般解」であるようです.日本結晶成長学会は, このような期待に応えうる確かな基礎研究の文化を育んできました.しかし,基礎研究の言葉や手法は,分野外の人には難解と映るようですし,理論的に取り扱い易い 物質を対象とするため,「研究のための研究」ではないかという批判も少なくありません.大学人が「産業界で必要とする大学の基礎研究の課題」を見つけ新しい 「知の創造」につなぐことができるために産業界との接点の場を提供することは,新しい学会の大きな課題です.同時に,企業人が「基礎研究の成果」をしっかりと受け 止めて,産業の活性化に役立てていただけるなら,本学会のめざす「活力の創出」を実現できるでしょう. 

  一方,大学には,自分たちの研究成果を産業化するために起業をめざす教員や学生も増えてきました.産業界がさまざま な経験と知識を提供することを通じて,ともすれば「武家の商法」になりがちな大学の起業に対し,手をさしのべることも「活力の創出」に寄与できるでしょう.新しい 学会がそのような場になればと願います. 統合前の両学会は,結晶成長学の言葉で言えば, nucleation and growth でできた結晶粒にたとえることができる でしょう.このたびの統合は,結晶粒同士のcoalescence(融合)です. 結晶成長において coalescenceが起きると,融合前の結晶粒のファセットが方位を異にしていても, 融合した結晶に方位は1方向に揃い,結晶はさらに大きく広がっていきます.

  新しい学会においても,この融合をきっかけに,理学と工学,産業と大学,基礎と応用,理論と実験,半導体と誘電体などの間 にあるさまざまなポテンシャルバリアを克服して,会員数を飛躍的に伸ばすとともに,もっと多くの企業にご賛助いただけることを強く願っています.さらに本学会が 「知の創造」と「活力の創出」をすすめわが国の「もの作り」の中核となることを期待しております.

 

 

東京農工大学理事 ・ 副学長
   日本結晶成長学会誌VOL33,No.1 2006 掲載

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