新しい日本結晶成長学会の発展を祈念して -学会統合に際し人工結晶工学会を代表して
In Anticipation of Growth of JACG
--on behalf of The Association of Synthetic Crystal Science and Technology-
平野 眞一

 この度の日本結晶成長学会と人工結晶工学会の統合に際しまして,人工結晶工学会を代表してご挨拶させていただきます.

  人工結晶工学会は,日本の結晶成長に関する学術団体として日本結晶成長学会,日本結晶学会,応用物理学会などとともに長年活動してまいりましたが, その起源は,1956年に開催された日本化学会東海支部人工鉱物部会にまでさかのぼることができます.当時は合成アルカリハライド結晶が製造市販され, 合成雲母結晶育成の実験もほぼ一段落した頃でしたが,一方で米国のGE社からダイヤモンドの人工合成の成功が発表され,また,ベルヌーイ法によるルビーやルチル結晶の育成もようやく工業化し,推奨を含めた 電子工業用結晶の育成研究が盛んになり始めた頃でもありました.このようにわが国における結晶成長の潜在的なポテンシャルが高まっていた時期に,第1回の人工鉱物討論会が自然発生的に始まりました. この会の発足に当たってはアルカリハライドの単結晶育成や鉱物の高圧合成を行っておられた京大の帰山亮教授,ルチル単結晶や推奨の工業化に貢献された山梨大学の国富稔教授,圧電結晶や水晶の工業化に つくされた東北大の大原俵作教授,合成雲母の育成を精力的に行われていた名大の野田稲吉教授らが中心となり尽力されました.その後,名大の斉藤肇教授,中重治教授によって討論会は軌道に乗り,さらに信光社 の広瀬三夫氏らのご努力によって1982年に特許庁の学術団体として承認されました.

  その間,自覚しい経済発展に伴う社会の要請に沿う形で,高品質大型半導体単結晶,ダイヤモンド,機能性酸化物の製造など,結晶を取り巻く世界は急速に拡大して いきました.また,人工鉱物工学会は1991年に名称を人工結晶工学会と改めましたが,多くの方のご尽力により人工鉱物,無機材料の基礎及び応用に関する研究者が集う討論会として毎年1回行われ,ついに昨年は 第50回の記念討論会を開催することができました.さらに討論会に加えて,1983年からは毎年4月に特別講演会を開催して,時期的に関心の高いトピックテーマについてご講演をいただくとともにその内容につい ては単行本としてまとめて出版してまいりました.現在までに発行された「人工鉱物の進歩」,「人工鉱物と先端技術材料」,「機能性材料と人工鉱物」,「人工結晶と新材料の創製」,「人工結晶と先端デバイス技術」の 5冊の本は,結晶合成の歴史から応用に至るまでの内容を含んでおり,多くの方に活用いただいております.

 本会の活動は,先の討論会と講演会だけではなく,いくつかの分科会の活動として行われてきたことに特徴があります.この分科会活動は,先の本の出版を担当していただ いた出版分科会をはじめ,講演会を企画していただいた新材料・新技術分科会,単結晶育成技術分科会,国際会議の開催などについて担当していただいた国際交流分科会など様々な活動によって,日本の結晶成長の 発展にいくらかの貢献をしたものと自負しております.

 本会は,こうした活動を永年にわたり続けてまいりましたが,結晶成長の学術・技術の関係者が一同に会し,この分野の進展に貢献する体制を強化するために,この春に 日本結晶成長学会と統合して新しい日本結晶成長学会として活動していくこととなりました.今日,結晶関連技術が幅広い産業において重要な役割を担っている中,日本の結晶科学,産業技術をいっそう高め, グローバルな競争の中においても日本の結晶成長に携わる研究者がその主導的な役割を果たす必要が高まっております.これまで人工結晶工学会と日本結晶成長学会は,それぞれの特徴を生かした学会活動を 進めてきましたが,研究者間の交流をさらに促進することで,より一層の先導的研究が進むものと考えております.

 最後に,この50年間,人工結晶討論会・工学会の活動に参加,ご支援いただきました研究者,企業のかたがたに厚く御礼申し上げますとともに,この統合が,結晶成長に関する 基礎研究から産業応用への密接な連携を促進し,さらにこれから生まれてくるであろう新しい領域にも対応できる活力ある学会となることを期待しております.

人工結晶工学会会長(名古屋大学総長)
日本結晶成長学会誌VOL33,No.1 2006

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