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2017年 日本結晶成長学会賞受賞者 紹介
第12回業績賞および赤﨑 勇賞・第34回論文賞・第24回技術賞・第15回奨励賞

第12回業績賞および赤﨑 勇賞

受賞者
上羽 牧夫
上羽 牧夫 Makio Uwaha
 愛知工業大学基礎教育センター 教授
 Professor, Center for General Education, Aichi Institute of Technology
受賞題目
「ステップの動的挙動に関する理論的研究」
Theoretical study of step dynamics
受賞理由
 上羽牧夫氏は結晶成長の理論的研究により結晶成長学の発展に顕著な業績を挙げた.その中心となるものが結晶表面上でのステップの動的挙動に関する研究である.とりわけ表面拡散場中のステップ列における間隔の不安定化による束形成(バンチング)やステップの直線性の壊れ(蛇行)について先駆的な研究を行った.
 等間隔直線ステップ列の線形安定性解析は以前から行われていたが,これだけでは不安定化した後にステップがどのような振舞をし,どのような構造を形成するのかといった問題には答えられない.上羽氏は,齋藤幸夫氏や佐藤正英氏らと協力して,シミュレーションや解析的手法を駆使し,揺らぎの振幅が増大したときの非線形効果によるステップの挙動を研究した.バンチングにおいては,拡散場の非対称性によってステップの密度波が現れた後,ベニー方程式で記述される安定な等間隔なステップ束が現れることなどを示した.またステップの蛇行については,孤立ステップが蔵本―シバシンスキー方程式で表され時空カオスを示すのに対し,微斜面では規則的なパターンに変化することなどを系統的に明らかにした.これらの結果により,ステップの挙動について拡散場の対称性や蒸発の有無の点からの統一的な理解をもたらした.同様に,ステップダイナミクスによるナノ構造の緩和や通電加熱時のシリコン表面でのステップ挙動の解明などにも多いに貢献している.
 上羽氏が提案する各種のモデルは,極めて単純でありながら,常に実験を意識しつつ現象の本質を取り入れたモデルと言える.いずれの研究も実験結果の解明に重要な貢献をし,応用範囲も広く,本会業績賞および赤風E賞にふさわしいと判断した.

受賞者
中嶋 一雄
中嶋 一雄 Kazuo Nakajima
 東北大学金属材料研究所 名誉教授
 Emeritus professor, IMR Tohoku University
受賞題目
「四元系半導体・太陽電池結晶の高品質化研究と産業応用」
Research for high-quality crystals of quaternary semiconductors and solar cells and their industrial applications
受賞理由
 中嶋一雄会員は,1969年から一貫して半導体結晶成長の研究に従事し,主に長波長光通信と太陽電池の分野で,素子結晶の高品質化に向けた基礎研究と実用技術の開発に貢献してきた.代表的な業績を以下に列記する.
1. 長波長光通信
  III-V族四元系状態図は,1970年頃には未知の分野であった.長波長光通信用光素子の開発に,InGaAsP四元半導体の液相エピタキシャル(LPE)結晶が最適であった.この結晶をInP基板にLPE成長するために必須の四元系平衡状態図,全波長帯の格子整合条件,発光波長の総合的相関を,世界に先駆けて決定した.この成果は多くの書籍として海外で出版され,光素子結晶の研究を拡げる原動力となった.さらに,ミスフィット転位の無い高品質薄膜と良質ヘテロ構造のLPE成長技術を開発し,高効率の発光・受光素子を実用化した.富士通(株)は,この長波長帯に高感度なInGaAs受光素子を海底と北米の幹線系に展開して50%近いシュアを占め,光通信の発展に大きな貢献をした.現在もInGaAs受光素子は,光通信をベースにした現代社会を支えている.
2. 太陽電池
 Siインゴット多結晶の高品質化には,核形成に基づく組織制御が鍵であると提唱し,局所 的過冷却を用いたデンドライト結晶利用成長法を世界に先駆けて開発し,太陽電池特性の均一化を実証した.この組織制御の提唱と実証が,組織制御成長が世界に広まり実用化される原点となった.年間生産規模が70 GWを超える太陽電池用Si結晶の市場で,その大半を占めるインゴット多結晶が組織制御をして製造されている.本研究は,世界規模の実用技術の開発に対して,重要な知見と強いインパクトを与えた貢献度の大きな成果である.さらに,ルツボに非接触で融液内成長できる独創的なNoncontact Crucible成長法を考案し,ルツボ径に近い高均一・大口径のSiインゴット単結晶の成長に成功し,次世代技術としての有望性を実証した.
  これらを含む中嶋会員の研究業績は,先進性と独創性が高く結晶成長分野へ広く貢献するのみならず,それらの産業応用を通じて光通信と太陽電池の発展・拡大に貢献した.以上のことから,本会業績賞および赤崎勇賞にふさわしいと判断した.

第34回論文賞

受賞者
吉川 洋史
丸山 美帆子
丸山 美帆子 Mihoko Maruyama
 京都府立大学大学院生命環境科学研究科 特任講師
 Specially Appointed Associate Professor,
 Kyoto Prefectural University
吉川 洋史 Hiroshi Y. Yoshikawa
 埼玉大学大学院理工学研究科 准教授
 Associate professor, Department of Chemistry,
 Saitama University
受賞題目
「レーザーアブレーションによる結晶成長モードの能動制御と大型タンパク質結晶作製への応用」
Promotion of protein crystal growth by actively switching crystal growth mode via femtosecond laser ablation
受賞対象論文
1.査読有り原著論文
"Promotion of protein crystal growth by actively switching crystal growth mode via femtosecond laser ablation"
Yusuke Tominaga, Mihoko Maruyama(責任著者), Masashi Yoshimura, Haruhiko Koizumi, Masaru Tachibana, Shigeru Sugiyama, Hiroaki Adachi, Katsuo Tsukamoto, Hiroyoshi Matsumura, Kazufumi Takano, Satoshi Murakami, Tsuyoshi Inoue, Hiroshi Y. Yoshikawa(責任著者) and Yusuke Mori
Nature Photonics, Vol. 10, No. 11, 723-726 (2016).
2.解説記事
“結晶を壊して大きくする?!―セレンディピティと異分野連携が産んだタンパク質結晶育成法”吉川洋史,丸山美帆子.化学,Vol. 72, No. 5, 21-25 (2017).
受賞理由
 丸山美帆子会員と吉川洋史会員は,タンパク質結晶を破壊することで大型化するという従来までの考え方を覆す革新的技術の開発を行った.本技術の鍵は,フェムト秒レーザーアブレーションという光技術により結晶を局所的に破壊し,結晶成長の駆動力が大きい渦巻き成長を強制的に引き起こすことである.驚くべきことに,アブレーションしきい値強度近傍のレーザー照射条件であれば,X線構造解析が可能な大型の単結晶が得られることがわかった.また丸山会員と吉川会員らは,渦巻き成長は結晶の大型化に有利なだけでなく,不純物の結晶への取り込みを低減することも見出しており,本技術によって結晶の成長機構そのものを積極的に制御して結晶の高品質化を促す可能性を示した.本技術はタンパク質結晶の成長様式を時空間的に制御可能な世界初の技術であり,従来の溶液条件の試行錯誤によるタンパク質結晶化法とは一線を画すものである.本技術によって,難結晶性タンパク質の結晶化および構造解析による機能解明を促進され,ドラッグデザインに対して直接的な貢献を果たすことがと期待される.将来的には,タンパク質に限らず他の有機低分子結晶,無機結晶,薄膜エピタキシャル成長などにも原理的に応用できると考えており,レーザーを用いた新しい結晶成長マニピュレーション技術として幅広く展開する可能性を有している.また,以上の成果は,結晶成長学の丸山美帆子会員とレーザー科学の吉川洋史会員らが有機的に連携した分野横断的なアプローチによって達成されており,結晶成長学の新しい道筋を開拓したという意味でも重要である.以上の理由から,本会論文賞にふさわしいと判断する.

第24回技術賞

該当者なし

第15回奨励賞

受賞者
大黒 寛典
大黒 寛典 Hironori Daikoku
 トヨタ自動車株式会社 東富士研究所 先端材料技術部
 Toyota Motor Corporation
受賞題目
「4H-SiC結晶の凹界面形状制御溶液成長」
Solution Growth on Concave Surface of 4H-SiC Crystal
受賞理由
 大黒寛典会員は,次世代パワーデバイス材料であるSiCの普及に向けて,溶液成長によるSiCバルク単結晶の研究に取り組んできた.SiC溶液成長の最も重要な課題である溶媒の巻き込み(インクルージョン)を凹界面形状制御法によって抑制できることを見出した.この方法では,結晶成長界面を凹形状,溶液流動方向を中心上昇流に制御し,結晶外周から中心に向かうステップフロー成長の方向と逆向きに溶質を供給することで結晶全面のステップフローを安定化させてインクルージョンを抑制できることを明らかにした.この手法によって,溶液法の報告値で最も厚い2inch径12mm厚,1inch径30mm厚のバルク結晶の作製に成功している.また,結晶から切り出したウェハからショットキーバリアダイオード素子を作製し,溶液法で作製したウェハでも問題なく初期動作することを世界で初めて実証した.
 大黒寛典会員は,結晶成長メカニズムに基づいてSiC溶液成長のバルク化を成立させるための革新的な方法を見出しており,今後の結晶成長学の発展を担う人材であることが期待できるため,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するのにふさわしいと判断した.
受賞者
村田 憲一郎
村田 憲一郎 Ken-ichiro Murata
 北海道大学 低温科学研究所 助教
 Assistant Professor, Institute of Low Temperature Science,
 Hokkaido University
受賞題目
「氷結晶の表面融解における熱力学的起源の解明」
Elucidating the Thermodynamic Origin of Surface Melting on Ice Crystals
受賞理由
 氷の表面融解はマイケル=ファラデーの着想に端を発する氷にまつわる未解決問題の一つである.特に,表面融解に伴う擬似液体層の生成は,融点近傍での氷の結晶成長や表面物性に大きな影響を与えるが,その起源は今もなお解明されていない.村田憲一郎会員は「濡れ」の観点からこの問題に取り組み,擬似液体層の熱力学的な生成条件,および濡れ転移の存在を実験・理論の両面から明らかにした.これは,長年の謎であった氷の表面融解を引き起こす新しい機構を提示するのみならず,他の結晶の表面融解を理解するための普遍的な枠組みを示す極めて重要な成果である.更に,村田氏は擬似液体層の濡れダイナミクスに着目することで,これまで困難であった擬似液体層の物性の定量的評価にも成功している.これは従来の研究の主流であった分光法,構造解析,数値計算等とは一線を画すアプローチであり,その場観察の強みを活かした独創的な成果である.
  以上の様に村田氏は,氷の表面融解の物理的描像を刷新する極めて重要な発見をしており,そのユニークな着想と深い洞察力は今後の結晶成長学の発展に大きく寄与すると期待される.故に,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.
受賞者
山 智也
山 智也 Tomoya Yamazaki
 北海道大学低温科学研究所 博士研究員
 Postdoctoral Fellow, Institute of Low Temperature Science,
 Hokkaido University
受賞題目
「タンパク質結晶化における核生成その場観察と技術開発」
In-situ observation of nucleation and technical developments on protein crystallization
受賞理由
  山葡q也会員は,タンパク質の結晶化に関する基礎研究とそれに関わる“その場”観察技術の開発に取り組んできた.山侮≠ヘ,タンパク質結晶の核生成過程を“その場”観察するために,水溶液中を透過電子顕微鏡(TEM)で観察する技術を世界に先駆けてリゾチームタンパク質の結晶化へ応用した.その結果,水溶液中で成長するリゾチーム結晶をTEMで捉えることに成功し,本観察系に対する電子ビームの影響を評価する手法を確立した.さらに,リゾチーム結晶が核生成する瞬間を捉えることに成功し,2種類の非結晶粒子(下地になるもの,前駆物質になるもの)が核生成に関与していること見出した.タンパク質結晶の核生成の描像をTEMの空間分解能において明らかにしたことは,核生成の理解の進展に寄与するため大いに意義がある.一方,半年間に及ぶ宇宙空間でのタンパク質結晶表面“その場”観察実験に用いるために,長期に渡る安定性を保持した密閉型ガラスセルの設計,開発も行っている.山侮≠ヘガラスセルに用いる材質の選定や試験,評価を行い,温度変化によるガラスの破壊や溶液の蒸発を防止しつつ,顕微干渉計による精密測定を実現したガラスセルを開発することに成功している.開発されたセルは国際宇宙ステーションでの実験に供され,運用された結果,宇宙におけるタンパク質結晶の成長速度の過飽和度依存性を測定することに成功している.これらの成果が掲載された論文は,いずれも各掲載紙のハイライト論文に選出されている.以上のことより,今後の結晶成長学の発展に対しさらなる貢献が期待できるので,日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した.