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2016年 日本結晶成長学会賞受賞者 紹介
第11回業績賞および赤﨑 勇賞・第33回論文賞・第23回技術賞・第14回奨励賞

第11回業績賞および赤﨑 勇賞

受賞者
松岡 隆志 Takashi MATSUOKA
 東北大学 金属材料研究所 教授
 Professor, Institute for Materials Research, Tohoku University
受賞題目
「光ファイバ通信・青色発光素子用結晶の先駆的成長技術」
Crystal Growth of Compound Semiconductors for the Application to Optical Fiber Communications Systems and Blue Light-Emitting Devices
受賞理由
松岡隆志会員は,1978年以降、化合物半導体の結晶成長を中心に、光通信、照明などの広い発光素子応用に向けた基礎技術の開発に貢献してきた。代表的な業績を以下に列記する。
1)現用の光ファイバ通信用InGaAsP/InP分布帰還型レーザー
1981年に1.55μm帯InGaAsP/InP分布帰還型レーザーの室温連続発振に成功し、通信システムを実用化した。レーザー作製に当たって、InP回折格子上に素子構造を液相成長するときにフォスフィンを導入することによって燐圧を制御し、回折格子形状を損なうことのない成長技術を確立した。開発したレーザーは、波長多重通信の概念を創出し、本レーザー以前に較べてファイバあたりの通信容量を4,000倍に増大し、現在の高度情報化社会を支えるキーデバイスとなっている。
2)InGaNおよびInN結晶成長技術
1991年にInGaNを結晶成長する手法を確立した。InGaNの大きな窒素平衡蒸気圧を克服するために、雰囲気ガスを水素から窒素ガスへの転換、従来より二桁以上高いV/III比、および、GaNの成長温度より200℃低い成長温度によって、InGaN単結晶薄膜の成長を可能にした。この成長技術は、青色発光ダイオードの発光層に用いられており、青色発光ダイオード作製における必須の技術となっている。さらに、単結晶InN薄膜の有機金属気相成長に成功し、バンドギャップ・エネルギーが0.7 eV程度であることを示した。上述したインジウムを含む結晶のエピタキシャル成長技術は、窒化物半導体の幅広い分野における素子応用を可能にする。
これらを含む松岡会員の研究業績は、先導性と独創性が高く、結晶成長分野へ広く貢献するのみならず、産業界にも多大な影響を及ぼしている。以上のことから、本会業績賞および赤風E賞にふさわしいと判断した。

第33回論文賞

受賞者
日比野 浩樹 Hiroki HIBINO
 関西学院大学 理工学部 教授
 Professor, School of Science and Technology, Kwansei Gakuin University
影島 博之 Hiroyuki KAGESHIMA
 島根大学 大学院総合理工学研究科 教授
 Professor, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Shimane University
受賞題目
「電子反射率の量子的な振動を用いた二次元物質の層数決定」
Thickness Determination of Two-Dimensional Materials from Quantized Oscillation in Reflectivity of Low-Energy Electrons
受賞対象論文
論文① H. Hibino, H. Kageshima, F. Maeda, M. Nagase, Y. Kobayashi, and H. Yamaguchi
Microscopic thickness determination of thin graphite films formed on SiC from quantized oscillation in reflectivity of low-energy electrons, Phys Rev. B 77, 075413 (2008).
論文② H. Hibino, S. Mizuno, H. Kageshima, M. Nagase, and H. Yamaguchi
Stacking domains of epitaxial few-layer graphene on SiC(0001), Phys Rev. B 80, 085406 (2009).
論文③ C. M. Orofeo, S. Suzuki, H. Kageshima, and H. Hibino,
Growth and low-energy electron microscopy characterization of monolayer hexagonal boron nitride on epitaxial cobalt, Nano Res. 6, 335 (2013).
受賞理由
日比野浩樹会員と影島博之会員は、SiC基板の熱分解により成長させたグラフェンの層数を、10 eV以下の低エネルギー電子の反射率のエネルギー依存性に現れる量子的な振動から、デジタルにカウントできることを発見し、低エネルギー電子顕微鏡(LEEM)を用いて、基板表面のわずか数原子層厚さのグラフェンの層数分布を10 nm程度の空間分解能で測定した(業績1)。また、金属薄膜上に化学気相成長させた六方晶窒化ホウ素(hBN)の層数も、同様の手法で決定できることを示し(業績3)、電子反射率の量子的な振動を用いた層数評価法が二次元物質や基板の種類に依存しない手法であることを明らかにした。二次元物質の層数評価法は多数あるが、LEEMは、基板上の二次元物質の層数を、ナノスケールの空間分解能で、デジタルに決定できる分析法として、層数評価の標準手法と認識されている。
日比野会員と影島会員は、さらに、LEEMを用いて測定した局所領域からの回折電子強度の入射電子エネルギー依存性を解析することで、SiC基板上に成長させた2層グラフェンの積層構造を決定し、2層グラフェンには積層構造の異なる2種類のドメインが混在していることを明らかにした(業績2)。LEEMを使って、二次元物質の結晶成長のその場観察や、基板上に成長された多結晶二次元物質の結晶方位マップの測定も行った。
グラフェンやhBNなどの二次元物質は、その優れた性質から、幅広い産業分野での応用が期待されている。二次元物質の物性解明や産業応用には、大面積で高品質な原子層膜が不可欠であり、その成長技術を確立するための基盤技術として、二次元物質の構造をナノスケールで精密に決定する手法は重要である。本論文で確立されたLEEMによる二次元物質の層数と積層構造の決定技術は、二次元物質の結晶成長機構の解明や成長条件の最適化への貢献を通して、結晶成長の基礎科学と二次元物質の応用に大きなインパクトを与えると期待される。以上のことから、本会論文賞にふさわしいと判断する。

第23回技術賞

受賞者
藤岡 洋 Hiroshi FUJIOKA
 東京大学 生産技術研究所 教授
 Professor, Institute of Industrial Science, The University of Tokyo
太田 実雄 Jitsuo OHTA
 東京大学 生産技術研究所 助教
 Research Associate, Institute of Industrial Science, The University of Tokyo
小林 篤 Atsushi KOBAYASHI
 東京大学 生産技術研究所 特任助教
 Project Research Associate, Institute of Industrial Science, The University of Tokyo
上野 耕平 Kohei UENO
 東京大学 生産技術研究所 特任助教
 Project Research Associate, Institute of Industrial Science, The University of Tokyo
受賞題目
「非晶質基板上への窒化物半導体LED作製技術の開発」
Development of Fabrication Processes for Nitride Semiconductor LEDs on Amorphous Substrates
受賞理由
窒化物半導体は可視光・紫外光の発光ダイオードやレーザダイオードなど発光素子の材料として注目を集めている。一般に、これらの半導体発光素子は、高価で口径の小さな単結晶ウェハを基板材料としてエピタキシャル成長技術を用いて作られていた。受賞グループは、2次元層状物質バッファー層を用いるという新しいアイディアによって周期性を持たない非晶質基板上にも可視LEDを作製できるほど高品質なc軸配向GaN系結晶を成長させることに成功した。具体的には、非晶質SiO2基板上にグラフェンバッファー層を介してIII族窒化物を積層することによって高い結晶性を持ったInGaN/GaN多重量子井戸構造を作製し、赤・緑・青、3原色のLEDを初めて実現した。通常GaN系LEDはMOCVD法を用いて1000℃以上の高温で作製されるが、受賞グループはガラスの歪点以下の温度で大面積に結晶成長が可能な手法でLEDを作製する技術を同時に開発しており、これらの技術を統合的に用いると無機結晶LEDの応用分野が大きく広がることが示された。本技術は、結晶成長技術の従来の適用限界を格段に広げ、安価な大面積非晶質基板の上に高性能な半導体発光素子を実現できる独創性の高いゲーム・チェンジ技術であり、技術賞を授与するに相応しいと判断した。

受賞者
奥津 哲夫 Tetsuo OKUTSU
 群馬大学 大学院理工学府 教授
 Professor, Division of Molecular Science Graduate School of Science and Technology,
 Gunma University
受賞題目
「タンパク質結晶化促進プレートの開発」
Development of Vessel for Protein Crystallization
受賞理由
タンパク質の結晶を育成することは、タンパク質の構造と機能の相関を解明する分野において重要な科学と技術であり、また創薬における必須の工程である。奥津哲夫会員は光化学反応を駆使して結晶化を制御する研究に取り組んできた。特に、タンパク質の光誘起結晶化を世界に先駆けて見出し、その機構を解明するとともに、結晶化を促進する結晶化容器の開発・実用化を行い、和光純薬工業株式会社から販売された。この製品の特徴は、結晶成長学や光化学に関する知識を必要とせず、通常のタンパク質の結晶化実験がそのまま利用できること、および反応に利用する光は蛍光灯などの室内光やインキュベーター内の照明が使え、特殊な光源を用意する必要がないことである。以上の理由により、受賞者が開発・実用化したタンパク質結晶化促進プレートは、構造生物学・創薬分野において求められるタンパク質結晶育成の技術を前進させた世界で唯一の製品であり、日本結晶成長学会技術賞に相応しいと判断した。

第14回奨励賞

受賞者
麻川 明俊 Harutoshi ASAKAWA
 山口大学大学院 創成科学研究科 助教
 Assistant Professor, Graduate School of Sciences and Technology for Innovation,
 Yamaguchi University
受賞題目
「氷の表面融解によって生成する2種類の擬似液体層の熱力学的安定性の解明」
Thermodynamic Stabilities of Two Types of Quasi-Liquid Layers Formed by Surface Melting of Ice Crystals
受賞対象論文
論文① H. Asakawa, G.Sazaki, E. Yokoyama, K. Nagashima, S. Nakatsubo, Y. Furukawa
Roles of surface/volume diffusion in the growth kinetics of elementary spiral steps on ice basal faces grown from water vapor, Crystal Growth & Design 14, 3210 (2014) .
論文② H. Asakawa, G.Sazaki, K. Nagashima, S. Nakatsubo, Y. Furukawa
Two types of quasi-liquid layers on ice crystals are formed kinetically, Proceedings of the National Academy of Sciences USA 113, 1749 (2016).
論文③ H. Asakawa, G.Sazaki, K. Nagashima, S. Nakatsubo, Y. Furukawa
Prism and other high-index faces of ice crystals exhibit two types of quasi-liquid layers, Crystal Growth & Design 15, 3339 (2015).
受賞理由
麻川明俊会員は、氷の表面融解によって生成する2種類の擬似液体層を種々の温度・水蒸気圧条件下でその場観察し、2種類の擬似液体層が速度論的に生成する「準安定相」であることを見出した。 麻川氏はまず、大気圧下で気相成長する氷結晶ベーサル面の単位ステップを直接光学観察し、観察用氷結晶が真に感じる温度と過飽和度を精密に決定する方法を確立した。この方法を駆使し、同氏は次に表面融解の根源となる擬似液体層の熱力学的安定性に着目し、水分子の温度-圧力相図上で2種類の擬似液体層が生成しうる条件を明らかにしようと試みた。その結果、2種類の擬似液体層は特定の水蒸気圧以上の高過飽和条件下でのみ生成する「準安定相」であることを見出した。この成果は表面融解という呼称にもかかわらず、擬似液体層が氷表面が融けるというよりも過飽和水蒸気の氷表面への凝縮によって速度論的に生成することを示しており、従来の表面融解の描像に大きな修正を迫る。さらに同氏は、ラフニングするために直接観察が困難である氷結晶プリズム面上でも、形態の異なる2種類の擬似液体層が生成することを見出した。この成果は、氷の表面融解において、結晶の面指数によらず、2種類の擬似液体層の生成が本質的に重要であることを示す。
以上のように、麻川明俊会員は氷の表面融解の物理的描像を再構築する上で基盤となる重要な発見をした。また、これらの成果が著名な学術誌であるProc. Natl. Acad. Sci. USAやCryst. Growth Des.に掲載されたことは、今後の結晶成長学の発展に寄与すると期待できるので、日本結晶成長学会奨励賞を受賞するにふさわしいと判断した。

受賞者
原田 俊太 Shunta HARADA
 名古屋大学 未来材料・システム研究所 助教
 Assistant Professor, Institute of Materials and Systems for Sustainability (IMaSS),
 Nagoya University
受賞題目
「SiC溶液法における高品質化メカニズムの解明」
Mechanism of High-Quality SiC Crystal Growth by Solution Method
受賞対象論文
論文① Different behavior of threading edge dislocation conversion during the solution growth of 4H-SiC depending on the Burgers vector, S. Harada, Y. Yamamoto, K. Seki, A. Horio, M. Tagawa, and T. Ujihara, Acta Materialia, 81, 284(2014).
受賞理由
原田俊太会員は、次世代パワーデバイス材料であるSiCの高品質化に向けて、SiC溶液成長の研究に取り組んでいる。その中で、溶液成長過程において、成長表面にマクロステップが形成し、進展することにより、貫通転位が90°折り曲げられ、基底面の転位に変換する事を明らかにした。さらに、異方性弾性論に基づく転位の弾性ひずみエネルギーの計算から、マクロステップによる転位変換現象の物理的メカニズムも明らかにしている。変換された基底面転位は成長に伴い、側面から排出されるため、厚膜成長を行うことにより原理的に転位密度を低減することが可能であり、実際この方法により欠陥密度が大幅に低減することを実証している。これまでに、溶液成長過程における貫通転位変換現象を活用することにより、市販基板よりも各種転位密度が2桁以上も低い超高品質SiC結晶成長を実現している。
原田俊太会員は、原子スケールからマクロスケールの緻密な欠陥評価を基に、結晶成長における高度な欠陥制御のために、物理的メカニズムを解明する研究に精力的に取り組んでおり、結晶成長学の未来を担う人材であることが期待できるため、日本結晶成長学会奨励賞を受賞するのにふさわしいと判断した。